
世に存在する大体の競技は、男女別に分かれている。
多くのスポーツ競技に然り、男女の筋力差などの影響を受けない将棋でさえ、「女流棋士」という制度が存在するほど、競技の世界では男女が分けられることが一般的だ。
しかし、eスポーツの世界を見てみると、女性リーグはまだ一般化していない。
海外大会でエキシビション的に開催されるケースはあるものの、女性チームのみを対象とした本格的なリーグや大規模イベントは、他競技ほど普及していないのが現状だ。
では、そもそも筋力差のないeスポーツに、女性リーグは本当に必要なのだろうか。
将棋に見る「別枠制度」の意味
この問いを考える上で、まず参考になるのが将棋界である。
将棋は、男女による身体的なハンデがほとんど存在しない競技だ。それにもかかわらず、プロ棋士の多くは男性が占めている。
その最大の理由は、競技人口の差にある。
将棋人口は圧倒的に男性が多く、必然的に競争環境も男性中心になる。その中でトップ層が生まれやすくなり、結果として女性がプロになる難易度は非常に高くなる。
こうした背景から誕生したのが、女流棋士制度である。
これは「女性の実力が低いから」作られた制度ではない。
むしろ、環境や機会の格差を是正するために設けられた仕組みだと言える。
eスポーツにも存在する「見えない格差」
この構造は、eスポーツにも当てはまる。
現在のeスポーツ界においても、競技人口は圧倒的に男性が多い。
幼少期からゲームに触れる機会、周囲の理解、コミュニティへの参加しやすさなど、多くの面で男性が有利な環境に置かれてきた。
その結果、トップレベルに到達する女性プレイヤーの数は必然的に少なくなる。
重要なのは、これは「能力差」ではなく「環境差」だという点である。
才能があっても、挑戦できる場所がなければ表に出ることはできない。
なぜ女性リーグが「必要」だと言えるのか
では、この状況において女性リーグは必要なのか。
結論から言えば、現時点では「必要である可能性が高い」。
その理由は、大きく三つある。
① 競技人口を広げる役割
女性限定リーグや大会が存在すれば、「目指せる場所」が可視化される。
ロールモデルが生まれ、
「自分もあそこに行けるかもしれない」
という意識が芽生える。
これは、新規参入を増やす上で非常に重要な要素だ。
② 心理的ハードルを下げる効果
現在のeスポーツ界は、良くも悪くも男性中心の文化で形成されてきた。
ボイスチャットでの発言、SNSでの反応、コミュニティの空気感など、女性にとって参加しづらい場面はまだ存在する。
女性リーグは、そうした不安要素を取り除いた「安全な競争環境」として機能する可能性がある。
③ 育成・発掘の場としての価値
将棋界において女流棋界が育成の場として機能してきたように、eスポーツにおいても女性リーグは才能発掘の場になり得る。
経験を積み、注目を集め、オープン大会へ進出する。
そうした流れが生まれれば、競技全体のレベル向上にもつながる。
女性リーグが抱えるリスク
もちろん、女性リーグには課題もある。
最大のリスクは、「隔離」になってしまうことだ。
主流リーグより明確に格下扱いされたり、賞金や注目度に大きな差がついたりすれば、逆に差別構造を固定化してしまう恐れがある。
また、「女性だから別枠」という意識が強まりすぎれば、純粋な実力評価が歪む可能性もある。
理想は「ステップ」としての女性リーグ
理想的なのは、女性リーグを「ゴール」ではなく「通過点」として位置づけることだ。
最終的な目標は、男女の区別なく、実力のみで競い合える環境が当たり前になることである。
そのための過渡期的な仕組みとして女性リーグが存在するならば、それは大きな意味を持つ。
将棋界も、女流制度を維持しながら、男女混合での挑戦を促してきた。
その結果、近年では垣根を越えて活躍する女性棋士も増えつつある。
eスポーツも、同じ道を辿る可能性は十分にある。
「分けるか否か」ではなく「どう育てるか」
結局のところ、重要なのは
「分けるか、分けないか」ではない。
どうすれば競技人口を増やせるのか。
どうすれば才能が埋もれないのか。
どうすれば誰もが安心して挑戦できるのか。
この問いに真剣に向き合った結果として生まれる制度こそが、本当に意味のあるリーグなのだろう。
女性リーグは、目的ではなく手段である。
その先にあるのは、誰もが自然に競い合える、成熟したeスポーツ文化だ。